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身近な生きものの観察・調査から始める野生動物共存教育:学校でできる実践アイデア

Tags: 野生動物, 共存教育, 観察, 授業実践, 総合学習

なぜ身近な生きものの観察・調査が共存教育に有効なのか

野生動物との共存というテーマは、生徒たちにとって遠い話に感じられるかもしれません。しかし、私たちの身の回りには、実はさまざまな野生動物が暮らしています。学校の敷地内や通学路、近所の公園など、普段何気なく通り過ぎている場所にも、鳥、昆虫、小動物の姿や痕跡を見つけることができます。

身近な生きものに目を向け、観察や調査活動を行うことは、生徒たちが野生動物の存在を「自分事」として捉える第一歩となります。五感を使って直接体験することで、生態系の一員としての自覚や、命の尊さ、そして人間活動が野生動物に与える影響について、実感をもって考えるきっかけを提供できるでしょう。このアプローチは、生徒の知的好奇心を刺激し、共存への意識を自然に育む上で非常に効果的です。

学校で実践できる観察・調査活動のアイデア

ここでは、小中学校の授業で取り組みやすい具体的な観察・調査活動のアイデアを2つご紹介します。

1. 学校敷地内の生きもの探しと観察(小学校低学年〜中学年向け)

比較的安全な学校敷地内で、身近な生きものを見つけ、その多様性に気づく活動です。

目的: * 身近な場所に多様な生きものが暮らしていることを知る。 * 生きものの特徴や行動に興味を持つ。 * 命の尊さや環境とのつながりを感じる。

準備: * 観察シート: 生きものの絵や写真を貼れるスペース、見つけた場所、日付、天気、気づいたことなどを書き込めるシンプルなシートを用意します。先生が事前にテンプレートを作成しておくとスムーズです。 * 観察用具: ルーペ、虫眼鏡、必要に応じて双眼鏡など。 * 図鑑: 昆虫、鳥、植物など、学校周辺で見られる可能性のある生きものの図鑑を準備します。 * 安全管理: 事前に危険な場所(立ち入り禁止区域、植物のトゲなど)を確認し、生徒に周知します。アレルギーを持つ生徒がいる場合は、特定の植物や昆虫への接触を避けるよう指導します。

手順: 1. 導入(10分): * 「学校のどこに、どんな生きものがいると思う?」と問いかけ、生徒の興味を喚起します。 * 観察のルール(例: 触ってはいけない生きもの、大きな声を出さない、植物を踏み荒らさない)と安全管理の注意点(例: 先生から離れない、転ばないよう足元に注意)を説明します。 2. 観察活動(30〜40分): * 班ごとに分かれ、観察シートと用具を持って敷地内を探索します。 * 先生は生徒の様子を見守り、発見があったら「どんな形かな?」「何をしていると思う?」などと声かけをして、思考を促します。 * 見つけた生きものの特徴(色、形、大きさ、動き、隠れている場所など)を観察シートに記録させます。 3. まとめ・共有(15〜20分): * 教室に戻り、見つけた生きものを発表し合います。 * 「こんなところにこんな生きものがいたんだ!」「どうしてここにいるのかな?」など、気づきや疑問を共有します。 * 先生は、生きものたちがそれぞれの場所で、どのように暮らしているか(食べ物、隠れ場所など)を補足説明し、環境とのつながりを伝えます。

ポイント: * 生きものに触れる際は、先生が安全性を確認し、適切に指導することが重要です。 * 発見の喜びを重視し、どんな小さな発見でも肯定的に評価しましょう。

2. 地域における野生動物の痕跡調査(小学校高学年〜中学生向け)

学校周辺の公園や里山、河川敷など、より広い範囲で野生動物の痕跡(足跡、糞、食痕、巣など)を探し、地域の野生動物の生息状況や人との関わりを考える活動です。

目的: * 野生動物が実際に地域に暮らしていることを実感する。 * 痕跡から動物の行動や生態を推測する力を養う。 * 人間と野生動物との接点や共存の課題について考察する。

準備: * 調査範囲の選定と許可: 学校周辺の公園管理者や自治体(教育委員会、環境部局)に、活動範囲、日程、目的を伝え、必要な許可や協力を得るようにします。私有地への立ち入りは避け、安全が確保された場所を選定します。 * 痕跡図鑑・資料: 足跡、糞、食痕(食べ跡)、毛、羽などの識別ができる専門の図鑑や資料を用意します。地域の野生動物に関する情報(生息種、出没情報など)も事前に収集しておきます。 * 記録用具: 地域マップ、カメラ(スマートフォン可)、筆記用具、記録用紙(発見場所、種類、特徴、日時などを記録)。 * 安全管理: 毒虫、ヘビ、ハチなど危険な生きものや、崖、水辺など危険な地形を事前に確認し、生徒に注意喚起します。複数名の教員やボランティアで生徒の安全を確保します。熱中症対策、防寒対策も忘れずに行います。

手順: 1. 事前学習(45分×1〜2コマ): * 地域の野生動物(出没しやすい動物種やその特徴)について講義します。 * 野生動物の痕跡の種類と見つけ方、識別方法を写真や動画を使って紹介します。 * フィールドワークでの安全管理やルール(例: 単独行動をしない、大声を出さない、私有地に入らない)を徹底します。 * 調査計画を立て、班ごとに担当エリアや役割分担を決めます。 2. フィールドワーク(90分〜半日): * 班ごとに選定されたエリアを歩き、野生動物の痕跡を探します。 * 発見した痕跡は、写真に撮り、記録用紙に日時、場所、種類(推測)、特徴などを詳細に記録させます。 * 可能であれば、地域の専門家(自然保護団体の職員、地域で活動するナチュラリストなど)に同行を依頼し、その場で痕跡の解説や質問への回答をしてもらうと、生徒の学びが深まります。 3. 記録・分析(45分×1コマ): * 教室に戻り、記録した情報や写真を整理します。 * どのような動物の痕跡が、どこで多く見つかったか、なぜその場所に多かったのかなどを班で話し合い、分析します。 4. 考察・発表(45分×1〜2コマ): * 調査結果に基づき、地域の野生動物の生息状況や、人間との接点、共存に関する課題について考察を深めます。 * 「私たちの生活圏と野生動物の活動域はどのように重なっているか」「どんな問題が起きているか(ゴミ、交通事故など)」「どうすればより良く共存できるか」といったテーマでディスカッションを行います。 * 班ごとに、調査結果と考察をまとめた発表資料(ポスター、スライドなど)を作成し、全体で発表し合います。

発展: * 地域の鳥獣被害対策担当者(自治体職員)や、野生動物保護に取り組むNPO団体の方を招き、講演会や質疑応答の機会を設けることも有効です。 * 調査結果を地域の行政機関や保護団体に情報提供し、地域課題解決への貢献を意識させることもできます。

授業を成功させるためのヒントと注意点

1. 安全管理の徹底

2. 情報収集と教材準備

3. 地域連携の活用

4. 事後学習の充実

まとめ

身近な生きものの観察や調査活動は、生徒たちが野生動物との共存を「自分事」として捉え、深く考えるための貴重な機会を提供します。具体的な体験を通じて、生命の尊さ、多様性、そして環境とのつながりを学び、将来にわたって野生動物とのより良い関係を築くための基礎となるでしょう。

先生方には、安全管理と事前準備をしっかりと行い、地域のリソースも活用しながら、これらの実践的な活動を授業に取り入れていただくことを推奨いたします。生徒たちの好奇心を刺激し、共存の心を育む第一歩となることを願っています。